ロバの音楽座とコンサートのおはなし
2020年10月10日(土)たましんRISURUホール小ホールで、「ロバの音楽座」による0-3歳児向けのコンサート「ポロンポロン」の開催を予定している。(公演詳細はこちら)
30年以上に渡り子どもたちに音楽を、とりわけ生の演奏を届けるため、全国各地の劇場・学校・幼稚園などへ向かい、数多くのステージを重ねてきたロバの音楽座。たくさんの古楽器や創作楽器と、遊び心、空想、旅などを織り交ぜた独自の音楽で、類のないような、しかしどこか懐かしさを感じる不思議な世界を創り出す。そんなロバの皆さんは、世界中が未知のウイルスに震撼させられているこの状況をどのように見ているのだろうか。そう思い、梅雨明けの某日、活動拠点であるロバハウスへ伺った。
聞き手・文:岡崎未侑(公益財団法人立川市地域文化振興財団)
1. 世界の現状に率直に感じること、アーティストとして直面していること―
2. 立川市市民会館での「コンサートのぼうけん」、「もけらもけら」の思い出―
3. 10/10(土)開催「ポロンポロン」について―
1. 世界の現状に率直に感じること、アーティストとして直面していること―
ロバの音楽座 メンバー
(写真左から)大宮まふみ・松本雅隆・冨田りぐま・上野哲生
ー今年2月末に学校が一斉休校になったあたりから、全国で公演中止・延期がどっと増えたように思います。ロバの皆さんは学校訪問も多いですから影響が大きいのでは、と気になっていました。
冨田:今秋以降決まっていた学校公演も、次々と中止または延期と変わってきています。授業が遅れ夏休みも返上しているほどですから、音楽鑑賞教室の枠もなくさざるを得ないのでしょう。
ーやはりそうなんですね。それでも、ロバの音楽座としては2月末以来、約4か月ぶりにコンサートがあったそうですね。
松本:7/19( 日)、なかのZEROホールで公演しました。当初2日間の予定の公演が1日になり、お客さんを半分に制限し会館側も万全のコロナ対策をして公演をしました。
ー久しぶりの生での演奏、実感はいかがでしたか。
大宮:緊張もしましたけど、嬉しかったですし…お客様はもちろんマスクをしているので表情はあまり見えませんが、拍手の熱量がすごくて、こちらに返ってくるのを感じて、待っていてくださったんだなと強く感じました。
上野:我々はコンサートではだいたい、一緒に歌ってもらったり口ずさんだりというのが常ですが、実際には歌ってはいけない中で、心の中で歌ってくれと言って。そうするとなんとなく心の声が聞こえるような感覚があって、皆でその心の声に耳をすましたり…。そういうのは新しいかたちというか。全てが声を出すだけじゃないという気もしましたね。
ーコロナ禍では飛沫の問題で、歌の分野は再開にまだ時間がかかりそうです。
松本:今回(10/10「ポロンポロン」公演)はそういう制限はありますか?
ー財団(=主催者)としては、今のところ禁止にはしない予定です。プログラムの一部の曲ですし、席も前後左右の間隔を空けていますので、マスク着用必須で入場していただき、話し声と同じくらいの発声に押さえていただくように対策を取ります。場内アナウンスやプログラム掲載でそのあたりの注意点を案内して対応しようと考えています。これからの状況によっては変わるかもしれませんが…。
(※リンク:財団主催事業における「新型コロナウイルス感染症対策」とご来場のお客様へのお願い)
音楽業界、公立文化施設、劇場でも検証や実証実験が進み、試験的な公演も少しずつ動き出していますね。
松本:それはとてもありがたいです。行政の文化芸術に対する対応は地方地方で全然違いますね。7/19の公演以降、北海道でのツアーもありました。その中で、文化活動というのは会館側と演者と観客との共同作業であるということを改めて実感したこと。そしてこの時期にこそ子どもたちの心を解放させてあげたい、音楽によって元気を与えたいという気持ちがあります。聴きたいという欲求と、こちらの願いみたいなものが一致すると今までにない深い感動が生まれるような気がしました。
ー30年以上音楽を続けられてきた中でこんなに長くお客さんと触れず舞台で演奏しなかった期間はなかったと思います。
松本:なかったことですね。7/19の公演は「楽器の国へようこそ」という作品でした。ましてや初演。気持ちも含めて身体を万全な状態で本番に持って行けるのかという不安はありました。
冨田:自分がウイルスに罹ったら、誰かにうつしてしまったら…。今までに経験したことのない不安と緊張です。新しい作品を作る上での不安や緊張は、日々の練習の積み重ねによって少しずつ当日を楽しみに迎える方向に変化してゆきますが、ウイルスの不安は未だ晴れることがありません。
大宮:この状況の中、演劇や音楽やさまざまなジャンルの方が映像配信をし、それを見る人もとても多かったと思います。それは今できる形ではあるけれど、それと生の舞台とは全く別の世界だと思います。私達は生の出会いというものを大切にしてきましたから、生の舞台が届けられないこの状況を何とかしたい、絶対取り戻さなければいけない、と強く感じました。
ー使命感のようなものも。
一同:はい。(強くうなずく)
大宮:一昨日もロバハウスでワークショップとコンサートをやりました。ある子どもがお母さんのほうへ帰っていくときに、「あー楽しかった~!」と大きな声で言った言葉が、とても嬉しく響きました。
冨田:嬉しいですね。
ー音楽を聴く方法という意味では、テクノロジーの発展やライフスタイルの多様化の中で選択肢が広がってきていますが、生で聴くという方法をなくしてはいけないというのは、劇場関係者としても深く考えます。
松本:音楽は太古の昔から人と人をつなぐ大切なツールですから、今は3密3密と大変ですけど、子どもは3密の中で育っていくわけです。友達とぶつかりあったり、大きな声で歌いあったり手をつないだりして。
ー新作「楽器の国へようこそ」も制作期間が緊急事態宣言中だったと思いますが、当初予定していた演出と変えましたか?
松本:いろいろ変えましたね。例えばコールアンドレスポンスの観客参加は、声を出さず心の中で歌ってもらいました。結果、それがとても心に響く現象を生んだと思います。
松本:そうそう、この状況をいかに逆手に取っていかに愉快に美しくしていくかは課題ですね。
ー社会情勢を一つの創作の条件として捉える、まさに創意工夫ですね。
この期間に各地の会館、主催者などともやりとりされたと思いますが、反応はどのようでしたか。
松本:様々な反応です。特に東京からは来てほしくないという風潮が広がってきているようにも感じます。公演を実施する為にどのような対策をして、より安全な公演が可能かを互いに話し合うことは大切ですね。負の連鎖は怖いです。
ー「やらない」ということによる将来的な影響にまで考え及びますよね。
重い話から始まってしまいましたが、今、避けられないことではあります。人が外に出られない、集まれない状況でも音楽や文化芸術が必要だということ自体は、いろいろな人がいろいろな方法で再認識しました。しかし、それを生で聴く、劇場で聴くことの必要性はまた別で考えられていると思います。私たち劇場関係者は、音楽や文化芸術が存在していることとは別に、劇場でみること生で聴くことの必要性をきちんと言語化して、アーティストや地域住民の皆さんと共有していくということが必要だなとすごく感じましたし、皆さんからいただいた今回のお話を発信して、会場側もアーティストも観客も皆で、劇場文化を途絶えさせないように協力していきたいなと思っています。